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札幌高等裁判所函館支部 昭和33年(ネ)69号 判決 1959年7月07日

控訴人 申立人 道南開発産業株式会社 代表者取締役 工藤粕蔵

訴訟代理人 臼木豊寿 外一名

被控訴人 相手方 佐藤彰朔

訴訟代理人 樋渡道一 外一名

主文

原判決を左のとおり変更する。

被控訴人控訴人間の函館地方裁判所昭和三十三年(ヨ)第四〇号仮処分申請事件について昭和三十三年四月八日同裁判所がなした仮処分決定は、被控訴人が右仮処分決定に表示せられた保証として供託した金五万円の外更に保証として本判決言渡の日より十日内に金二十五万円を供託することを条件として、これを認可する。

訴訟費用は第一、二審共控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取消す、主文第二項掲記の仮処分決定を取消す、被控訴人の申請を却下する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、被控訴代理人において、「被控訴人主張の試掘権の存続期間は延長により昭和三十三年十一月四日までであつたが、被控訴人は鉱業法第十八条第二項及び第四項の規定に従い同年七月四日札幌通商産業局長に対して存続期間再延長許可の申請をしたので、同法第二十条の規定により右申請が拒否されるまでは被控訴人の試掘権は存続するものとみなされるところ、札幌通商産業局長は昭和三十四年四月六日被控訴人の右申請を不許可とする処分を行つたけれども、被控訴人は同月十八日右不許可処分の取消を求める訴を札幌地方裁判所に提起し、同年五月十一日右不許可処分の執行を停止する旨の決定を得たから、被控訴人は前記鉱業法第二十条の規定により依然被控訴人主張の試掘権を有するものである」と述べ、控訴代理人において「右主張事実は被控訴人がその主張の試掘権を現に有するとの点を除きこれを認める、右試掘権は札幌通商産業局長のなした存続期間延長不許可の処分により消滅したものである」と述べたほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

疏明として、被控訴代理人は疏甲第一号証、第二号証の一乃至三、第三乃至第八号証、第九号証の一乃至四、第十号証、第十一乃至第十四号証の各一、二、第十五号証、第十六号証の一、二、第十七乃至第二十三号証、第二十四号証の一、二、第二十五号証、第二十六乃至第二十八号証の各一、二、第二十九及び第三十号証、第三十一号証の一、二及び第三十二号証を提出し、当審証人朝日陶吉の証言及び原審(第一、二回)並に当審における被控訴本人の訊問の結果を援用し、疏乙第一乃至第四号証、第六乃至第十二号証、第十九及び第二十号証の各一、二、第二十八号証の二、第二十九号証の一、第三十号証、第三十一号証の一乃至五及び第三十二号証の各成立、同第五号証の一、二、第十三乃至第十五号証、第十八号証、第二十一号証の一、二、第二十二号証、第二十三及び第二十四号証の各一、二、第二十五号証の一乃至三及び第二十六号証の各原本の存在並に成立は認め、そのうち第一乃至第四号証、第五号証の一、二、第六及び第七号証を利益に援用する、同第二十七号証の成立は否認する、その余の疏乙号各証の成立は不知と述べ、控訴代理人は疏乙第一乃至第四号証、第五号証の一、二、第六乃至第十八号証、第十九乃至第二十一号証の各一、二、第二十二号証、第二十三及び第二十四号証の各一、二、第二十五号証の一乃至三、第二十六及び第二十七号証、第二十八及び第二十九号証の一、二、第三十号証、第三十一号証の一乃至五及び第三十二乃至第三十四号証を提出し、当審証人笹尾政信の証言を援用し、疏甲第一号証、第二号証の一、第三号証、第五乃至第八号証、第九号証の一乃至四、第十号証、第十一乃至第十四号証の各一、二、第十五号証、第十六号証の一、二、第二十三号証、第二十四号証の一、二、第二十五号証、第二十六乃至第二十八号証の各一、二、第三十号証、第三十一号証の一、二及び第三十二号証の各成立、同第二十号証及び第二十九号証の各原本の存在並に成立は認めるが、その余の疏甲号各証の成立は不知と述べた。

理由

被控訴人が北海道奥尻郡奥尻村地内けい石鉱区一五七、四ヘクタールについて昭和二十九年十月二十日札幌通商産業局長よりけい石試掘権設定出願の許可を受け、同年十一月四日右試掘権設定の登録を経、その後昭和三十三年十一月四日まで存続期間延長の許可を受けたこと、被控訴人が同年七月四日札幌通商産業局長に対し存続期間再延長の許可申請をしたが、昭和三十四年四月六日不許可の処分がなされたこと、被控訴人が同月十八日右不許可処分の取消を求める訴を札幌地方裁判所に提起し、同年五月十一日右不許可処分の執行を停止する旨の決定を得たことはいずれも当事者間に争いがない。ところで鉱業法第二十条によると、試掘権者より試掘権の存続期間延長の許可申請がなされた場合には、存続期間満了の後であつてもその申請が拒否されるまでは試掘権が存続するものとみなされるのであるから、たといその申請が不許可になつても、行政事件訴訟特例法第十条第二項により不許可処分の執行が停止された場合には、その執行停止決定が取消等によつて効力を失わない限り、不許可処分の効力の発生が停止され、不許可処分がなされない間と同様鉱業法第二十条により試掘権者の試掘権は存続するものと解するのが相当であるから、被控訴人は依然前記鉱区についてけい石の試掘権を有するものといわなければならない。

しかるに控訴人が右鉱区内の被控訴人主張の九九、三一アールの地域において岩石を採取し更に右地域に道路を開設し漏斗を設置する等採石工事を進める準備をしていることは当事者間に争いないところであるが、被控訴人は控訴人が既に採取し更に採取しようとしている岩石は被控訴人が試掘権を有するけい石であると主張し、控訴人はこれを争い右岩石は非鉱物たる黒曜石であると主張するので、この点について判断する。

まず鉱業法第三条に規定するけい石とは如何なるものをいうかについては、同法にはその範囲を明確にする何らの規定も存しないから、成因、成分、形状、産出状態、用途等諸般の点から合理的に判断して決定すべきものといわなければならないが、右けい石の定義の点はしばらく措き、これに関する所轄行政庁の解釈は右の点の判断をするにあたつて有力な資料とすべきことはいうまでもない。そこで本件係争の岩石を昭和三十一年五月七日附鉱山局長の通牒(疏乙第十五号証はその写であつて原本の存在並に成立について争いがない)に照して考えてみるに、いずれも成立に争いのない疏甲第二号証の一、第七及び第八号証、第九号証の一乃至四及び原審における被控訴本人訊問の結果(第一回)によつて成立の認められる同第二号証の二、三によつて疏明される本件係争岩石の成分、成立に争いない疏乙第六号証によつて疏明される右岩石の成分、成因、形状、産出状態によると、右係争の岩石は前記通牒の示すけい石の範囲には属しないものと一応認められる。そして疏甲第十号証、第十一乃至第十四号証の各一、二その他被控訴人の提出援用にかかる全疏明資料をもつてしても未だ本件係争の岩石が鉱業法第三条のけい石にあたることを疏明するに十分でない。しかし前述のとおりけい石の範囲は諸般の見地より決定すべきもので単純には決定し難い点、原本の存在並に成立に争いのない疏甲第二十号証、成立に争いのない同第二十八号証の一、原審における被控訴本人の訊問の結果(第一、二回)及び弁論の全趣旨によると、被控訴人は本件鉱区内より採取した控訴人が採取したと同様の岩石を添えてけい石試掘権の出願を札幌通商産業局長になしその許可を受けて本件の試掘権を獲得したのであり、すなわち同通商産業局長は少くとも右許可の当時にあつては右係争の岩石をけい石であると認めて許可したものであることが疏明される点、その他本件弁論にあらわれた諸般の事情に鑑みるならば、本件においては、係争の岩石が被控訴人において試掘権を有するところのけい石にあたるかどうかの点については保証をもつて疏明に代えるのが相当であるといわなければならない。

しからば、成立に争いない疏乙第七号証及び弁論の全趣旨によると、控訴人が本件岩石を採取したのは昭和三十一年六月四日「国有林野の産物売払規定」に従つて江差営林署長より前記地区内の黒曜岩八十三立方米を代金六万円で売払を受けたことに基き、本件係争の岩石を右の黒曜岩であるとして採取したものであることが疏明されるけれども、もしも右岩石がけい石にあたるものとすれば、控訴人の採取行為は被控訴人の試掘権を妨害することに帰着することはいうまでもない。

そして、控訴人において被控訴人の鉱業権の目的たる岩石の採掘を継続するにおいては被控訴人が著しい損害を被ることはいうまでもないから、被控訴人は控訴人が前記九九、三一アールの地域内に立入りけい石を採掘し又はその採掘設備を設置する等被控訴人の鉱業権を妨害する行為をすることの禁止を求める必要あるものと認められ、従つて被控訴人控訴人間の函館地方裁判所昭和三三年(ヨ)第四〇号の本件仮処分決定が控訴人に右のような行為の禁止を命じた点は正に相当であるが、前記のとおり被保全権利の存在につき保証をもつて疏明に代えしめる点、前記疏甲第二十号証によつて疏明される如く控訴会社は本件岩石採取の目的で設立されたものである点その他諸般の事情から考えると、右仮処分決定が被控訴人に立てしめた金五万円の保証は、たとい控訴人が売払を受けた岩石の代金額が金六万円にすぎない点を考慮しても、著しく低廉にすぎ、右保証の額は金三十万円をもつて相当と認められるから、保証として金五万円を供託させた函館地方裁判所昭和三三年(ヨ)第四〇号の仮処分決定を認可した原判決はこれを変更して、被控訴人において保証として更に金二十五万円を本裁判言渡の日より十日内に供託することを条件として本件仮処分決定を認可するのを相当と認め、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十六条第八十九条第九十二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 羽生田利朝 裁判官 渡辺一雄 裁判官 今村三郎)

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